子どもたちはわくわくしながら読んだことでしょう
「燈台島の怪」（横溝正史）
（「横溝正史少年小説コレクション
②迷宮の扉」）柏書房
「燈台島の怪」（横溝正史）
（「蠟面博士」）角川文庫
伊豆半島付近の孤島である
通称｢燈台島｣を、避暑のために
訪れた金田一耕助と
助手の立花滋少年は、
燈台守から奇妙な相談を受ける。
一週間前に来訪した男が、
嵐の夜に姿を消したというのだ。
その夜、
不思議な叫び声が聞こえ…。
横溝正史の探偵ジュヴナイルであり、
昭和27年の作品です。
当時の少年雑誌｢少年クラブ｣
八月号増刊に
掲載されたとありますので、
当時の子どもたち
(私よりもはるかに年上)は
わくわくしながら読んだことでしょう。
さしずめ、
夏休み特別企画といった趣があります。
【主要登場人物】
島崎
…燈台島の燈台守。金田一と親しい。
古河
…燈台島の燈台守助手。
兄の行方を探す青年。
古河謙一
…古河青年の兄。行方不明。
鎖の輪の刺青をもつ。
野口清吉
…燈台を訪れた旅人。
行方不明、のち死亡が確認。
山本
…古河青年と同部隊に所属した兵士。
戦死。
義足の男
…鎖の輪の刺青を持つ一人。
山海寺に妙な額を奉納した。
片腕の男
…鎖の輪の一味。
和尚…山海寺住職。
清水巡査…S漁村駐在。
立花滋…金田一の少年助手。
金田一耕助…私立探偵。
夏休み特別企画第一弾:
金田一耕助登場
横溝のジュヴナイルでは、
三津木俊介と御子柴少年が
おなじみですが、
夏休み特別企画だったのでしょう、
金田一耕助が登場します。
しかも少年助手･立花滋付きです
(このコンビ登場は
｢大迷宮｣｢金色の魔術師｣に次いで
3作目となります)。
やはりジュヴナイルには
名探偵と少年助手が必要です。
金田一耕助はそれほど謎を解かず、
立花少年は冒険らしい冒険を
していないのですが、
存在しているだけで
子どもたちはわくわくしながら
読んだことでしょう。
夏休み特別企画第二弾:
避暑地の孤島が舞台
舞台は孤島である｢燈台島｣。
｢獄門島｣だとか｢悪霊島｣といった
横溝特有の
おどろおどろしい地名でないのは、
｢燈台｣こそが
事件の大きな舞台となるからです。
それでも海岸には
｢地獄の八十八岩｣という
それらしい地名を配し、
島の地底には洞窟が広がっている、
謎と恐怖に満ちた島という設定は
横溝ならではです。
こうした背景だけですでに
子どもたちはわくわくしながら
読んだことでしょう。
夏休み特別企画第三弾:
暗号とお宝探し
行方不明となった男は死体で発見され、
謎の紙片を持っていました。
それを見ただけで｢暗号を解く鍵｣と
見抜いた金田一。
さらには｢暗号｣本体も
すぐに見つけ出します。
そしてその暗号はお宝の在処を
示したものであることが判明します。
お宝と暗号。
少年の夏の冒険の必須アイテムが
登場するのですから、
子どもたちはさぞわくわくしながら
読んだことでしょう。
もっともそれらはほとんど効果的には
使われていません。
いくらジュヴナイルとはいえ、
お粗末のそしりは免れません。
しかしそれでいいのです。
自分の愛読している少年雑誌の
夏休み増刊号に、
昨今大人たちの間で
話題になりはじめた金田一耕助が
登場している、それだけで
子どもたちはわくわくしながら
読んだはずなのです。
娯楽と呼べるものの
ほとんどなかった時代の、
夏休みを迎えた子どもの心に立ち戻って
本作品をじっくり味わいましょう。
※柏書房
「横溝正史少年小説コレクション
②迷宮の扉」収録作品一覧
仮面城
金色の魔術師
迷宮の扉
燈台島の怪
黄金の花びら
※角川文庫「蠟面博士」収録作品
蠟面博士
黒薔薇荘の秘密
燈台島の怪
謎のルビー
（2021.4.26）
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